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日本人完全理解書

「もう日本人の事で悩まない」現代日本人に悩む日本人嫌いの日本人の為の提案書

一命をも抛って争うべきなり。

「──譬えば政府の官吏を粗略にせざるは当然の事なれども、こはその人の身の貴きにあらず、その人の才徳をもってその役儀を勤め、国民のために貴き国法を取扱うがゆえにこれを貴ぶのみ。人の貴きにあらず、国法の貴きなり。旧幕府の時代、東海道に御茶壺の通行せしは、皆人の知るところなり。その外御用の鷹は人よりも貴く、御用の馬には往来の旅人も路を避くる等、すべて御用の二字を附くれば石にても瓦にても恐ろしく貴きもののように見え、世の中の人も数千百年の古よりこれを嫌いながらまた自然にその仕来に慣れ、上下互いに見苦しき風俗を成せしことなれども、畢竟これらは皆法の貴きにもあらず、品物の貴きにもあらず、ただ徒に政府の威光を張り人を畏して人の自由を妨げんとする卑怯なる仕方にて、実なき虚威というものなり。今日に至りては最早全日本国内にかかる浅ましき制度風俗は絶えてなき筈なれば、人々安心いたし、かりそめにも政府に対して不平を抱くことあらば、これを包みかくして暗に上を怨むることなく、その路を求めその筋に由り、静かにこれを訴えて遠慮なく議論すべし。天理人情にさえ叶う事ならば、一命をも抛って争うべきなり。これ即ち一国人民たる者の分限と申すものなり。」

 

福澤諭吉学問のすすめ」16p